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名古屋高等裁判所 昭和62年(ラ)33号 決定

昭和六二年(ラ)第三二号事件抗告人

道野勝平

右代理人弁護士

小田耕平

坂口徳雄

井上善雄

昭和六二年(ラ)第三三号事件抗告人

瀬尾義則

相手方

二和家具販売株式会社

右代表者代表取締役

広瀬孝芳

相手方

徳永通商株式会社

右代表者代表取締役

徳永博幸

相手方

すずらんベッド販売株式会社

右代表者代表取締役

西村成之

相手方

株式会社ワタナベ

右代表者代表取締役

渡部弘

相手方

株式会社マリアン

(旧商号 株式会社松本家具)

右代表者代表取締役

松本恵

主文

本件各抗告を棄却する。

昭和六二年(ラ)第三二号事件の抗告費用は同事件抗告人道野勝平の負担とし、昭和六二年(ラ)第三三号事件の抗告費用は同事件抗告人瀬尾義則の負担とする。

理由

一  抗告人道野勝平(以下「抗告人道野」という。)の抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)即時抗告申立書記載のとおりである。

抗告人瀬尾義則(以下「抗告人瀬尾」という。)は、「原決定中抗告人瀬尾に関する部分を取り消す。」との決定を求め、抗告の理由は、別紙(二)解任申立に対する意見書記載のとおりである。

二  当裁判所も、抗告人両名を解任した原決定は相当であり、本件抗告はすべて理由がないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原決定理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  抗告人道野の抗告の理由は、要するに、同抗告人において本件破産手続の公正かつ円滑、迅速な進行を妨げる行為に及んだことはなく、右手続の進行が遅滞しているのは専ら破産管財人である弁護士足立洋(以下「管財人」という。)の執務上の偏向と原裁判所が適切な指導を怠つたことに起因し、同抗告人に解任を相当とする重要な事実は存しない、というのである。

しかしながら、本件記録によると、(1) 相手方二和家具販売株式会社(以下「破産会社」という。)は、昭和六一年三月七日原裁判所に自己破産の申立をし、同年六月一〇日、破産宣告の決定をうけたこと、(2) 右破産宣告当時の資料によれば、破産会社は一八〇名余の債権者に対し合計約五億九〇〇〇万円余の債務を負担し、同年九月九日現在の届出債権者は九〇名、届出債権額は合計四億三三五三万円余であり、このうち抗告人道野が実質上の経営者である株式会社西原商事(以下「西原商事」という。)の届出債権額は三億二〇七七万円余であること、(3) 破産会社所有の不動産は岐阜市茜部中島所在の店舗とその敷地だけであるが、右土地、建物には西原商事のために唯一極度額合計一億八〇〇〇万円の(共同)根抵当権が設定されており、剰余価値は存しないこと、(4) 抗告人道野は、破産宣告直後から管財人に対し、抗告人瀬尾とともに、破産会社の在庫商品の買取りと破産会社の店舗を商品売出しのために使用させることを要求し、西原商事(ひいて抗告人道野)が大口債権者であり別除権者であることを理由に特別扱いをしないとの態度を表明する管財人に対し、「自分が最大口債権者であるから自分の納得するように破産手続を進めるべきだ。」と再三主張したこと、(5) 本件破産手続において、財団債権である租税債権が約五五〇〇万円あり、そのうちの約二〇〇〇万円が西原商事の前記抵当権(別除権)に優先する関係にあるところ、抗告人道野は、昭和六一年九月九日開催された債権調査期日の席上、相手方徳永通商株式会社から、破産会社の在庫商品の売却代金から右租税債権を全額支払うと別除権に優先する租税債権が消滅して別除権者(西原商事)を利することになる一方、一般債権者を害することになるので、別除権の対象となつている前記土地、建物を先に売却することによつて別除権に優先する租税債権を消滅させてもらいたい旨の発言があるや、「たかが数百万の債権者が何をいう。やれるものならやつてみろ。」などと放言し、また、他の債権者に対し相当な理由もないのに管財人が職務に不適格者であるかのように告げて回り、委託商品の返還及び在庫商品の確認等が困難で時日を要する旨の管財人の説明に対し、債権者の面前で「泣き言を言うのなら管財人を辞任しろ。」とあたかも管財人が無能であるかのような暴言を吐いて管財人を誹謗したこと、(6) 管財人は、抗告人道野ら監査委員に対して、同年九月一七日に財産調査のための集会を開き、その席で破産会社の帳簿類を閲覧させるとともに破産会社の役員を説明のために出頭させることを約し、公正を期するため帳簿の閲覧に補助者を使用する場合はその資格を税理士又は公認会計士に限定することを伝えたが、当日、抗告人道野は、右集会において、管財人が提示した帳簿類を閲覧調査することなく、管財人が出頭させた破産会社の役員に積極的に説明を求めることもせず、何らの資格を有しない大野敏夫なる人物に帳簿の照合をさせることを要求したり、破産会社の役員を非難することに終始したこと、(7) その後も抗告人道野は、管財人に対して種々要求をする一方、管財人から西原商事の破産会社に対する貸金の実際の交付額について照会を受けたのに、これに回答をしないばかりか、破産会社から利息は貰つていないとして、「利息を払つたなどという泥棒の言い分を聞いてそんな質問をするのは管財人として失格だ。」などと述べて破産会社を泥棒呼ばわりしたうえ、右調査に協力しなかつたこと、(8) 更に、昭和六一年一一月二〇日に開かれた監査委員の集会において、管財人が在庫商品の売却を提案し、その理由として、右在庫商品を保管してある建物について競売が申し立てられているため、早期に売却しないと競売手続が進行して右商品の保管に支障をきたすことその他右売却を相当とする事情の説明がされたのに、抗告人道野は、首肯しうる理由もなくこれに同意を与えなかつたばかりか、右説明を聞いた監査委員の山田都之良が右売却に賛成するので決議をしてもらいたいと述べるや、右山田に対し、「自分が商品を買つて儲けることだけを考えている。」などと非難して同人と小突き合いの喧嘩に及んだこと、などの事実が認められる。

ところで、破産手続における監査委員は、破産債権者のために選任されるもので、破産管財人の職務執行を監督し、これを補助する機関であるから、破産債権者のための公正な職務の執行を期待することができない事態に立ち至つた場合には、破産法一七四条二項の「重要ナル事由」ある場合に当たるものとして、裁判所は利害関係人の申立により、何時でも当該監査委員を解任することができるものと解するのが相当である。

そして、前記認定の事実関係に基づき、更に本件記録を検討すれば、抗告人道野については、原決定が指摘するような事由があり、これらを総合してみれば、すべての破産債権者のために公正に監査委員の職務を執行することを期待しえないものというほかない。したがつて、同抗告人については、破産法一七四条二項にいう「重要ナル事由」ある場合に当たるものというべきである。

2  抗告人瀬尾に関する原決定の理由中、原決定四枚目表七行目の「苦情が出て」とあるのを「苦情が出たほか、岐阜県県民生活課から抗告人瀬尾の配布した広告紙の記載内容が不当表示にあたる旨の警告があり、」に改める。

二  よつて、本件各抗告を棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官宇野榮一郎 裁判官日髙乙彦 裁判官三宅俊一郎)

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